◎アメリカのLGBT家族を写した写真集「All we need is Love」のフォトグラファー、清水尚さんに聞く
2010.10.8
- 清水さんはご自身もお父さんでいらっしゃるわけですが、
「家族」を撮ろうと思われたのは、その辺に関係 しているのですか?
まず・・・僕には子どもが2人いるのですが、子どもを持って、自分はすごく価値観が変わったと思うんです。
うちは奥さんも働いていましたので、比較的自由の効く自分が「子育てお父さん」をすることも多くて。
そんな中で、子どもからたくさんのものを与えてもらってきた。
一方でこの10年、本当に子どもの虐待事件が多かったと思うんです。
そんな世の中に「敢えて」幸せな子どものいる風景が見せたかった。そこで立ち止まって考えてほしくて。
それで、「子どものいる」「幸せな」風景を撮ることを考えたんです。
- ずっと気になっていたのですが、ヘテロである清水さんが、その中でも
なぜ「LGBT」家族を選んだのですか?
きっかけはいろいろあって・・・。
ひとつは前作(写真集「Portraits of silence 」 /講談社より2009年6月17日発行)で
イラクへの軍事活動で、兵士として子どもを亡くした親の姿を撮ったのですが、
その関連で子どもを育てているレズビアンの シングルマザーの方と知り合ったんですね。
その方との出会いというのもありました。
また、自分がファッション業界で育ってきて、強く影響を受けた多くのデザイナー、写真家、
自分の仕事を長い間支えてきてくれた自分の周りの大切なスタッフなどが
LGBTの方であったことが、大きな理由のひとつになっています。
この写真集にも出てくるのですが、あるゲイのカップルが、最初赤ん坊をひとり引き取ったんですね。
ところがこの赤ん坊には実は兄弟がいて、この兄弟たちはまた別の家族に引き取られていた。
だけど、その家族の中で、うまくいっていなくて。
それを知ったこのゲイカップルが、結局見ていられなくてその兄弟たちまで引き取ったんですよ。
彼らはとても大変だったと思います。でもそれを実行する。とても感動しまして。
血のつながりを越えた愛情、人間愛を見た思いがしました。
それが、ずっと気になっていた子どもの虐待の問題と結びついたんですね。
虐待の問題がある一方で、GLBTの家族たちは血とかではなく、結びつこうとしている。
- なるほど・・・。では、どうやってモデルとなった現地のLGBT家族たちと知り合ったのですか?
ロスとサンフランシスコのGLBT団体にGLBTの家族の写真が撮りたいという企画書を出しました。
そこで公募をしてもらって、手を挙げてくれた家族に撮影に協力してもらいました。
まずはインタビューをして、彼らの家族のことを聞いて。
撮影に当たっては”演出したドキュメンタリー”をイメージしました。
GLBTの家族には、よくある「リビングのソファに家族が座っている」・・・というような
一般的な、ありきたりなやり方は似合わないと思いました。
- 実際に撮影してみて、どうでしたか?
いろんなケースがありましたね。養子システムを使ったり、
里親として預かったり・・・。
アメリカではGLBT家族がとっても普通にいるんですよ!
特にサンフランシスコなんかの地区では家に
旗(※ レインボーフラッグ=同性愛者のシンボル) が掛かっていたりしてね。
保守的なエリアに住むカップルの場合は、外ではあまりベタベタしないようにするなど、
気を配ってもいるようでした。
だけどヘテロセクシュアルの家族ともごく普通に接していましたよ。
-日本では、レズビアンというか戸籍上女性のカップルによる家族のほうが圧倒的に多いと
思うのですが、アメ リカではゲイの家族のほうが多いのでしょうか?
この写真集には、ゲイの家族のほうが多く名乗りをあげてくれたのでゲイの家族のほうが
多く写っていますが、実際はレズビアンの家族のほうが多いようです。
- 今後はどんな展開を考えておられますか?
今回撮影に伺ったお宅には、また何年かしたら今度はお子さんを撮りに伺ってみたいですね。
彼らがどんなふうに成長したのか、興味があります。また、日本でも撮れたらいいな、と思っています。
- 清水さん、ありがとうございました!日本版も楽しみにしています!
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<お話を伺ってみて>
初めてこの写真集の存在を知ったときは、本当に嬉しかったのをおぼえています。
なんといっても、日本ではまだまだ「見えない」存在であるLGBT家族を撮った写真集が、
講談社から出ている!これはなかなかセンセーショナルです。
アメリカのLGBT家族の場合、養子縁組などで子どもを引き取る、つまり血のつながりのない子どもを
育てるケースが多いという背景があります。
対して日本では、同性カップルの養子縁組は非常に厳しく、以前の結婚で元配偶者との間に
生まれた子どもを、同性のパートナーと育てているというケースが圧倒的。
この写真集に出てくるアメリカのLGBT家族が、「血のつながりがない」にも関わらず
愛にあふれているという「尊さ」は、日本のLGBT家族にとってみると、若干の困惑
- たいていの場合は実子(あるいはパートナーの子)を育てているという「ごくごく一般的な」状態で
あるがゆえに -を感じさせもする部分もあるようにも感じます。
けれども、この写真集が見せてくれるLGBT家族の幸せな風景は、LGBTに近しくない
異性愛者の人たちにも受け入れやすい形でもって(これは異性愛者である
清水さんが撮られたからこそなのでしょう)、愛し合う大人同士のもとで子どもたちが愛され、
守られ、育つ土壌を作る「家族」という営みは、とても普遍的なものだと教えてくれています。
またそれと同時に、ごく自然的に発生した家族よりも多くの努力を必要とする分、
また多くの幸せもまた生みだしえるということも伝えてくれているように思います。
もし、日本でLGBT家族の写真集を撮ってもらえるのなら・・・(日本の家族たちが抱えている
現実を見ると、実現するのは、容易なことではないとは思いますが・・)、
「ごくごく普通にこんな家族がいるのだ」ということを伝えられるような、
そんなものになるといいなあと思います。
またこのたびは、思いがけないご縁で、こうして貴重なお話を伺うことができて、大変光栄でした。
ただ「LBGT家族のことをやりたい!」という思いだけで突っ走るド素人の私に、丁寧に向き合い、
話して下さった清水さん、本当にありがとうございました。
今度はセクシャリティを抜きにに、子育ての先輩としてのお話も伺ってみたいです!
2010.10.8 (一部修正しました)